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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

皇帝が歌を唄っている間は安全だが、もし悲鳴でもあげたら、たちまちその所在を曝かれてしまうことは、だれにだって容易に考えられるのである。強いてこんな不安心なところへ隠さなくとも、地下室なり物置きなり、いずれにせよもっと安全な隠し場所はいくらでもある筈である。

加十は溜息をついて、

「どうも合点がゆかない。何のためにこんな奇抜なところに皇帝を監禁したのか、その了見が判らない。……こうなれば、皇帝が自発的にあの下へ入り込んだのだと思う外はないが、しかし、皇帝がいくら酔狂でもそんなつまらんことはしないだろう」

と呟きながら思案投げ首の態だったが、やがて急に膝を打ち、

「フム、少し判りかけて来たぞ。……思うに、こんな筋道ではなかったろうか。……つまり、皇帝は何者かに誘拐されてこの近くまで来た時、どんな事情かでその手から脱れ、公園の中へ走り込んだが、身を隠す場所に困じ、あの皇帝のことだから、何か非凡な方法によって鶴の下へ逃げ込まれた。ところが誘拐者の方は皇帝ほどの智慧はないので、鶴の下へ入って行かれない。何とかして引き出そうとまごまごしているうちに夜が明け、おまけに例の「唄う鶴の噴水」