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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

根がしがない雑報記者の事だから、この際複雑な感懐などが起るべき筈はなく、ただ無暗に腹を立てたのである。磨き出したような黄色い新月さえも花王石鹸の広告の様に見えて一層ムシャクシャし、思わず馬鹿にしていやアがる、と叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)した件は先刻すでに述べた通り。

やがて加十は筒先をおさめてブラブラ歩き出そうとすると、この時うしろに当って、轟くがごとき拍手の音とともにに、ドッと歓声が挙った。思わず振返って見ると、会場では今や宴酣と見え、皎々と照し出された窓ガラスの向うを四、五人の同業が踊るような手ぶりで通り過ぎて行くのが見える。加十は怨めしげにその方を見上げながら、

「畜生、今に見ろ。明日になったらてめえらの肝っ魂をでんぐり返してやる。わが夕陽新聞にどんな奇想天外な計画があるか、よもやてめえらは知らねえだろう。それにしてもわが社の編集長幸田節三というのはなかなかの穎才に違いない。ああ一夜明けたら――」

と意味ありげな事を呟やくと、それから急に足取りを早めて有楽町の方へ歩いて行った。作者はこれから古市加十を銀座裏に引張って行く。どういう宿縁か古市加十はそこで或る怪しい人物に邂逅する事になる。