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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
これによって見ると今は元日の深夜だと思われるが、いくら自分の記憶の中をかい探って見ても、雑煮などを喰った覚えもなければ外務次官の年賀を受けたなどという記憶もない。
呆気にとられてもう一度丁寧に読み返して見たが、それは断じて自分の読みちがいなんていうものではなかった。その記事のあとに、外務次官談として、殿下には軽微なる御風邪の模様に拝されたが、平素に変らぬご元気で、日本の新年の風習につきいろいろと深い御理解を示された、と、この奇妙な会見に大きな太鼓判を捺している。
すると、自分が酔いどれて昏々と眠っている間に、何者かが王様面をしてごまめを喰ったり、要らざるお愛想をいったということになる。
これは何かの冗談なのか、それとも例の李光明一派の測り知られざる詭計の一種なのか。
冗談ならばすこしあくどいし、陰謀ならばあまりくだらなすぎる。自分の代りに数の子を喰ったり挨拶をしたりして、それでどうするというんだ。一向とりとめもなくて、考えれば考えるほど判らなくなってくる。
皇帝が呼鈴をおすと、いつものボーイ長が慇懃なようすで入って来た。
「ここに宋秀陳というものがいるか」