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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

ひょっとすると、今ごろはもう号外を出す支度でもしているかも知れん。大槻君、一体このおさまりはどうつける」

内務大臣も満面に朱を注いで、

「警保局長、えらいことをやってくれるじゃないか。それァ君、あんまりだ。迂濶というにも程があるじゃないか」

警保局長は面目なげに眼を伏せながら、

「いや、何とおっしゃられてもお返しする言葉もございませんが、われわれは早速夕陽新聞社と幸田節三の妾宅に手配をし、その方の危険を充分防禦いたしましたが……」

内務次官はやり切れないといった風に舌打ちをして、

「莫迦なことをいい給うな。新聞社を押えたって、印刷所はどこにでもある。号外を出すことぐらいに事を欠くものか、何を莫迦な」

どうする、どうすると、さながら娘義太夫の堂摺連のように四方八方から詰め寄られて、さすが警保局長も哀れはかなく見えた時、この騒動にピリオドを打つように、けたたましく卓上電話のベルが鳴り出した。

警保局長は電話器に飛びついて、ウンウン頷いていたが、掌で電話の口に蓋をして一同の方へ振返り、喜色を満面に溢れさせて、

「御安心下さい、替玉野郎がホテルへ帰って来ているそうです」