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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

さすがの加十も持てあまし、アングリと口を開いて睡りこけている、不甲斐ない王様の顔を忌々しそうに眺めていると、その時、どこからともなく異様な声が響いて来た。

先ほどから異様の連発で少々恐れ入るが、しかし何にしてもそれは異様な声だった。かりにこうもいえるなら、深い地の底で地虫が鳴くような、高い梢を微風が吹き通るような、何とも形容出来ぬ仄かな状態でどこからともなく響いて来る。のみならず、その声はこんな意外なことを囁くのである。

「王様、そこで独り言をいっていられるのは王様でしょう。私の声が聞こえますか。……私はね、昨夕あなたと一緒に飲み歩いた夕陽新聞の古市加十です。……え、おわかりになりましたか。夕陽新聞の古市です。……何しろ急にあなたがいなくなられたので、あなたの所在を探し出すのにどんなに骨を折ったか知れません。いろいろ頭を捻った末、「唄う鶴の噴水」からヒントを得て、ようやくあなたの所在をつき止めることが出来たのでした。……私はね、いま日比谷公会堂の地下室にいるんですが、ある事情があってそこへ入って行けないのですが、あなたをそこから出してあげる事は出来ます。