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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
ここで待っていれば、いやでも犯人の襟首に手をかけることが出来る筈であった。
真名古は銃士の中でも腕利の四人を召集すると、抜け目なくここへ配置し、自分は一と足先に傍証固めにとりかかっていたのだった。午後から今までの真名古の活動はもっぱら魚をこの網の中へ追い込むことにばかり費されていたのである。
果して魚は嚢網口からソロソロと大謀網の中へ入って来た。あとはもう網の口を締めるだけでよかった。その千番に一番のかね合いの時に、スルリと魚に逃げられてしまった。何のことはない。その魚は腹話術まがいに真名古の声色を使って、張込んでいた銃士を玄関の間へ駆け込ませ、不幸な銃士をそこへ閉め込んで悠々と逃げてしまった。あっけないといえば、実にあっけない始末だった。
真名古ほどの人間でも、これでは憤激せずにいられなかったろう。暗闇の中へ入って来た不幸な銃士の襟をひッ掴むと、歯軋りをしながらこずき廻していたが、急に変ったようになってガックリと椅子の中へ落ち込むと、首を垂れてそのまま動かなくなってしまった。
この四銃士は心から真名古を愛しているし、駆出しのころから真名古に手を取られて教えられて来た連中だから、自分らの未熟からこの稀有の大終幕をしくじらせたと思うと、いずれも暗然と涙を呑むばかり、なまじっかな挨拶などのあろう道理はない、