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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「ほほう、いよいよもって非凡だね。……すると、ここにいるのは僕自身なのか、それとも僕の幽霊なのか。僕の不可分性というものは、すこぶる信用の置けぬことになった」

「総監、私はあなたの冗談を伺うためにこんなところに突ッ立っているのではありません。私の質問にお答え願います。…………あなたはなぜこんなところへ忍んでおいでになったのですか」

総監は自若たる態度で、

「何しに来たと思うのだね」

真名古は挑みかかるような眼つきで総監を睨みつけながら、

「あなたがいわれぬなら、私が代って申しましょう」

と、壁の上にポッカリと口を開けている空洞を指差し、

「あなたは、あの壁の穴の中にある皇帝の大金剛石を取りにいらしたのです」

総監は眼を伏せて愁然と何か考え耽る様子だったが、やがて静かに顔を上げると、憐れむに耐えたといった面持で真名古の面をふり仰ぎながら、

「真名古君、僕には、君のこの恐るべき誤謬が一体何によって惹起されたか非常によく判るのだ。ある微妙な動機がすっかり君の思弁力を奪ってしまった。そのために、これほども単純な事柄を見誤ることになったのだね。その点たいへん気の毒に思う。