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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

それにしても、真名古はどうしてこんなひどい失敗をするようになったのだろう。総監の服を着た人物が、東京の中央と東部に同時に出現したという、あのホフマンふうな事件が起きた時、昨日の朝有明荘に現われたものの方が総監の模造品だとすべきであった。少なくとも観念の中から毬栗頭を控除するか、毬栗頭というものの素質について、もっと充分に研究すべきであった。それなのに真名古は、ただの一度もこの点に懐疑を持つようなことはなかった。真名古ほどの人間が、これほどの単純なことにどうして気がつかなかったかといえば、すでに総監も喝破したように、それはやるせない恋がさせたわざだったのである。

論理を情緒の軌道に乗せて突ッ走らせることは、たいていの場合誤ちを起し易いものだ。そして、凡百の場合がそうであるように、この場合もそうであった。

犯人は毬栗頭であったと語った花子の唇はいかにも愛らしく、その声は余りにも美しかったので、真名古の固苦しい心情はいつの間にかたいへんに感じ易くなり、知らず知らずにその証言に盲目的な信仰を懐くようになり、その中にすっぽりと顎まで嵌まり込んで、あえてうっとりとしているのだった。