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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
その有難さ、忝さ。親分もうあたしにはいえません。お察し下さいまし。……その岩井さんが、昨日の朝の八時ごろ、突然あたしのところへとび込んで来なすって、事情があって訳はいえないが、安南とやらの王様を、明日の朝の五時までどうでもお前の手で監禁ておいてもらわなければならねえような羽目になった。なんにもいわずに引受けてもらえまいかと申します。いやも応もあるもんじゃねえ。あたしの息のあるうちは、たとえ日本国中を相手にしても、約束の時間までは王様を人手に渡さねえと男の誓いをいたしました。こんな無器用なものを担ぎ出してお上にご迷惑かけるのも、みな岩井さんの恩義に報いるためなんでございます」
寅造は深く差しうつむきながら、安亀の話を黙然ときいていたが、この時フイと顔を上げ、
「するてえと、今朝がた日比谷公園で騒いだのは、やっぱりてめえの仕業だったのか」
「へえ、左様でございます」
「今夜、日比谷警察の留置場から王様をつれ出したのも、やはりてめえの仕業なのか」
「へえ、左様でございます」
「すると、王様はお怪我なく今この中においでになるんだな」
「へえ、地下室にお入れ申してあるんでございます」