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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
ハッチソンは急に黙り込んでしまった一座の顔を順々に見廻し、
「おやおや、どうしたてえのです、妙な顔をして。……ふ、ふ、気にしなさんな、今のはほんの冗談だ。……失礼だがこの事件はみなさんの手に合うようなんじゃアない事は、ハッチソン先生がよく知ってる。いわんや松谷鶴子が死んだとか生きたとか、そんな事はてんで問題にはならん。それがどんなものかもちろん私とても知らない。しかし必ずそうなるべき因縁だけはずっと前から知っているんです」
といって急に立上り、
「大分時刻も移ったことであるから、御法話はこのぐらいにして、ハッチソン先生いよいよ本業に取りかかる」
ハッチソンは口調とは違った引締った面持で敏捷に外套のボタンをかけ、入口の方へ一歩歩み出そうとした時、向うから扉が開いて入って来たのはこれもタキシード姿の岩井伯爵。ハッチソンは抜目なく声をかけ、
「おや、岩井の旦那、御本宅へお帰りになったというのにまだお召換えもなさらずに」
岩井は今までハッチソンが掛けていた椅子に腰をおろすと、やけに帽子の庇を突上げて端麗な額を剥き出し、
「いや、それがです、有明荘の門前に警察の人数が出張っていて僕を内部に入れてくれんのでしてねえ」