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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
……どうだ、もう判ったろう。なア、真名古君、君だって昨日や今日警察の飯を喰ったのじゃあるまいし、これ以上くどく説明する必要はなかろう、判ってくれたまえ」
「何をですか」
「何をって、……そうじゃないか、君。一国の皇帝がさ、情婦の家にいる時その情婦が窓から身を投げて死んだ。こんなことがパッと世間へ洩れたら、それこそ大変な醜聞じゃないか。そう思わんかね、君は」
といってハンカチを取出すと、脂ぎった猪首を赤くなるほどこすり廻し、
「そればかりならいいが、弱ったことには溜池署の巡査部長が皇帝をふン縛って署へ持って行ってしまったのだ。巡査部長が! 皇帝を!……えらい事をやったもんだ。そのために大臣を始めわれわれは今朝の五時から」
真名古はだしぬけに口を挾み、
「すると、他殺の疑いもあった訳ですな」
谷口はへどもどとハンカチを引きむしり、
「まアまア、そう君のように単刀直入にいっても困るが。……だからして、何とか処置をせんけりゃ」
「私にその処置をしろといわれるのですか」
谷口はハンカチで煽ぐようにし、
「そうなんだ、頼むよ頼むよ」
と今朝の事件をくわしく物語る。真名古は最後まで聞きとると、例の響のない声で、