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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁

青空文庫

決して、ただ悪しざまに申したり、戯れ口を弄んだ次第ではありませぬ。どうぞ、烏滸がましい女の取越し苦労と、お聞き流し下さいませ」

――鶏の声が遠くでしていた。

戸の隙まから、雪のために強い朝の陽がもう射していたのである。

白い木屑と断れた四絃の残骸を見つめたまま、武蔵は、鶏の声も耳に覚えなかった。戸の隙まから陽の光がさしていたのにも気づかなかった。

「……お。いつの間にか」

吉野は、夜明けを惜しむように炉の火へ焚木を足そうとしたが、牡丹の木はもうなかった。

戸を開ける物音や、小禽のさえずりや、朝の気配が遠い世間のようにきこえる。

けれど吉野は、いつまでも、ここの雨戸を開けようとはしない。牡丹の木はなくなっても、彼女の血はまだ温かだった。

禿や引船も、彼女が呼ばないうちは、ここの戸を無断で開けて入ってくるはずもなかった。

春を病む人

一

あわただしく解け去った春の雪であった。おとといの降りはもう痕かたもない。急につよく感じられる陽に、今日は綿の物は肌から皆捨ててしまいたくなった。温い風に騎って、春はいっさんに駈けつけて来たかのように、すべての植物の芽を鮮らかに膨らませていた。