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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁
断絃
一
そのまま、夜明けを待つつもりなのか、武蔵は、ぽつねんと、土間の上がり框に腰をかけていた。
――ただ一人、擒人にでもなっているようにである。
吉野は、客がいた時も、去ってしまった今も、同じように同じ位置に坐って、炉へ、牡丹の木を焚べていた。
「そこでは、お寒うございましょうに。炉へお寄りなされませ」
この言葉は、彼女の口から幾度も繰返されていわれたが、武蔵はその都度、
「お関いなく、先へお寝み下さい。夜が明け次第に、拙者は自由に帰りますから」
と、固辞するばかりで、吉野の顔をよく見ないのである。
二人きりになると、吉野もまたなんとなく羞恥み勝ちになって、口も重くなった。異性を異性と感じるようでは傾城の勤めは出来まいが――などという考えは、安女郎の世界だけを知って、松の位の太夫というものの育ちも躾も知らない低い買手どもの常識である。
とはいえ、朝に夕べに、異性を見ている吉野と、武蔵とでは、比較にならないほどな相違はある。実際の年齢からいっても、吉野のほうが、武蔵より一つか二つ上かも知れないが、情痴の見聞や、それを感じたり弁えたりしていることでは、当然、彼女のほうが遥かに年上の姉といえる。