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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁
今こそ、自分の胆は踵にこもっているという感。
――だが、足を止めて、一息つくとすぐ、なにかしら後ろで自分を呼ぶものがあった。お通の声である。また、城太郎の声である。
(元より気のせいだ)
そう彼は知っている。
(取り乱して、後を追って来るような女ではない。わかり過ぎるほど、自分の心もわかっている女だけに――)
ということも彼は知っている。
けれどそのお通が後ろから声をふり絞って来るような気持が、なんとしても頭から払えなかった。
ここまで駈けて来る間にも、ともすると振向いてみた。今も、足を止めるとすぐ、意識のうちに、
(もしや?)
と、耳はそれへ傾いてしまう。
時刻に遅れることは、約束を違えたといわれるのみでなく、彼として、戦う上に損である。無数の敵の中へ、単騎で斬り入るには、ちょうど月も落ち、夜もまだ明けきらないという、暁闇の一瞬こそ彼にとって利がある。勿論、武蔵もその考えで脚を急いで来たのであるが、また一つには、うしろ髪を引くようなお通のあらぬ声や姿を、心から振り捨てるためにも、ここまで眼をつぶるような気持で急いで来たものであろう。
三
外敵はこれを粉砕するも易し、心の敵は敗るよしなし。