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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

そのふるえを、後悔して眺めるように、小心な清高は、こわい顔になって言った。

「まあ仕舞いまで聞くがいい。――もし首尾よく果せば、後日、恩賞の領土を加えて、六波羅の一員にも列せしめよう、というありがたいご内約だが……しかし、それにそむけば、やがてわが家の没落は知れている」

「……で、あなたのお覚悟はどうなのでございますか」

「迷うのだ。妻子をみると」

「いいえ」彼女はさけんだ。

「そんな出世を、私たちは望んではおりません。ただ、あなたがあなたらしく、出雲源氏の誇りさえお忘れくださらなければ」

「なに」

清高は、妻の涙を憐れんだ。

「わしに、出雲源氏のほこりを持てというのか」

「ええ」

「そんなものを力に、そなたは生きてゆけるのか。いやさ、生きてゆける今の時勢と甘くみているのか」

「でも、それしかないではございませんか」

浮橋も必死であった。かたく自分の信に拠って、良人の迷いには共に迷おうなどともしない。

この一途さからして、清高には「妻はやはり古い女」と、ながめられた。狭い島内にいて、本土のことは何も知らないのだから無理はないと思われるものの――彼は後悔した――男の世界の重大な機密などを、やはり、打ち明けるべきではなかった。