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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁

青空文庫

こっちはとうに来て、この通り身支度して待ちぬいていた。――さっ、降りろ」

不利な立場のまま、無碍に進んでゆくほど、伝七郎も相手を軽んじてはいない。当然こういって敵を誘った。

「今――」

と、軽く答えておいて、武蔵はその間に、機を観ているような眼ざしだった。

機を観るといえば、伝七郎は武蔵のすがたを眼の前にしてから、満身の肉に戦いの生理を起していたが、武蔵のほうでは、彼の肉眼に自分を示す前から、とうに戦いを開始しているつもりで、戦いの中身を持って臨んで来ている。

証拠だてて、彼のその心事をいってみるならば、彼はまず、わざと道でもない寺院の中を通過していた。もう憩んでいる寺僧の世話までかけて、広い境内を歩かずに、この御堂の縁へ、いきなり建物伝いに来て立ったのでも分る。

祇園の石段をのぼった時、彼はもう多数の人間の足痕を雪の中に見たに違いない。あらゆる即智はそこで働いた。自分のうしろを尾行ていた者の影が自分から離れると、彼は、蓮華王院の裏地へ行くのに、わざとそこの表門へ入ってしまったのだった。

寺僧について、十分に、宵のうちからのこの附近の予備知識を得、そして茶ものみ、暖も取り、少し時刻が過ぎたのも承知しながら、唐突に、当の敵と面接するという策を取ったのである。