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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁

青空文庫

真っ黒に、武蔵を取りまいた。

いや、その武蔵が、背中の一方を木挽小屋につけているので、その小屋もろとも、取り囲んだという形である。

「…………」

武蔵は、三面の敵の頭数を、じっと眼で読みながら、この状態が、どう変化してかかって来るか――それをじっと見ているような眸であった。

三十人の人間がかたまれば、それは三十人の心理ではない、一団はやはり一個の心理である。その心理が微妙な動きを取って来る機先を観てしまうことは、そう難しいことではなかった。

案の如く、いきなり単独で、武蔵へ斬りつけて来るようなものはない。集合体の当然な姿勢として、多数が一つ個性にかたまるまでのしばらくの間は、ただがやがやと立ち騒いで、武蔵を遠巻きにしながら口々に罵り、中には、市井のならずものみたいに、

「……野郎」

とか、また、単に、

「青二才奴」

とか呻いて、自分たち個々の弱さを、いたずらに示すに過ぎない虚勢のまま、ややしばらく、桶のように円くなって、武蔵を囲んでいた。

最初から一個の意思と行動を持っている武蔵のほうは、その間、わずかな間にしろ、彼らよりは十分な余裕を持っていた。大勢の顔の中で、どれとどれが手強いか、どの辺が脆いか、ぴかぴか光る眼つきを拾って、およそ心に備えておく余地すらあった。