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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(五)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 508,883 字 · 1017 頁

青空文庫

酒も体にまわり、だいぶ主の舌もくたびれて来たらしい。武蔵は、この辺でと思い立ち、程よく辞去して戸外へ出てきた。

外へ出てすぐ感じたことは、町の何処一軒も起きていない暗さであった。そう長い時間とも思わなかったが、案外長坐していたものとみえる。夜はもうよほど更けているに違いなかった。

しかし旅宿はすぐ斜向いなので何の苦もない。開いている戸の間からはいって、寝臭い暗闇を撫でながら二階へ上がった。――そして伊織の寝顔をすぐ見ることであろうと思っていたところ、二つの蒲団はしいてあるが、伊織の姿は見えないし、枕もきちんと並んでいて、まだ人の温みに触れた気配もない。

「まだ帰らぬのであろうか」

武蔵は、ふと、案じられた。

馴れない江戸の町――どこをどう道に迷っているのかもわからない。

梯子だんを降り、そこに寝そべっている寝ずの番の男を揺り起して訊ねると、寝ぼけ眼で、

「まだ帰っておいでなさらねえようですが、旦那と一緒じゃなかったのでございますか」

と、武蔵が知らないことを、かえって不審り顔にいう。

「――はてな?」

このまま寝られもしない。武蔵は再び漆のような外の闇へ出て、軒下に立っていた。