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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
二
「へッ、そのお咲というのは平家名で」
「何だと?」
「薄雲が源氏名なら、元服してお咲は平家名じゃありませんか」
「無駄を言うな。――とにかく、溜屋の寮じゃ知らん顔もなるめえ。ちょいと行ってみようか、八」
「お出なすった」
「何だと?」
「なアに、三輪の親分の顔が見てえという話で――」
「止さねえか、馬鹿野郎」
「へッ、これで葛根湯が四服目だ」
手の付けようがありません。
二
神田から上根岸まで行くうちに、春の淡雪は大方解けて、足駄のめり込むような凄まじい泥濘になりました。
溜屋の寮へ着いたのは、かれこれ巳刻半(十一時)――やがて午刻近い刻限で、塀の下、藪の蔭などに、昨夜の名残の雪を、ほんの申訳ほど残している有様でした。
「お、銭形の親分、ちょうどいいところへ――」
主人の幸七は奥から飛んで来ました。三輪の万七にさんざん油を絞られているところへ、寺子屋友達の平次がやって来たのは、地獄で仏の心持だったでしょう。
小柄の三十前後、大店の若主人らしい、渋好みの身扮から、浅黒い引締った顔など、いかにも世馴れ、遊び馴れた心持の男前です。
「とんだ災難だったね、溜屋」
「三輪の親分は、犬が人を殺すはずはないから、家に居た者に違いない。