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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
二
堤の上からは若い武家が一人、それを覗いているのを見逃す平次ではありません。
「行ってみましょうか、親分」
ガラッ八の職業意識は燃え上がりました。
「放っておくがいい、武家の遊山船だ。――町方の岡っ引が口を出す場所じゃねえ。第一後がうるさいよ。それよりは堤の上から一生懸命、船の様子を見ている、若い武家の人相を覚えておくがいい」
平次はそのままそっぽを向いて通り過ぎます。
二
ちょうどその時、堤の下の屋根船には、大変な騒ぎが起っておりました。
駒形に屋敷を持っている、旗本大村兵庫。三千五百石の大身ですが、若くて無役で無類の放埒、この日は柳橋から花見船を仕立てさせ、用人村川菊内、愛妾のお町、仲間の勝造、それに庭掃きの親爺三吉をお燗番に、芸妓大小三人、幇間一人を伴れて、昼から漕ぎ出させ、水神まで一と往復した上、夕景から三囲の前に着けさせて、存分に夜桜の散るのを眺め、月が明るくなってから帰ろうという計画を立てました。
日が暮れる前、召使という名義になっている愛妾のお町は、長命寺境内に叔母が居るから、ちょっと挨拶だけでもして来たいと言い出し、相当むずかる主人の大村兵庫をなだめて船から上がり、お燗番の三吉は、用意の酒を酔っ払いの幇間にこぼされたので、口を開けたばかりの灘の銘酒の補充に、一と走り駒形まで帰りました。