Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
銭形平次捕物控
一
一
「八、花は散り際って言うが、人出の少なくなった向島を、花吹雪を浴びて歩くのも悪くねえな」
銭形平次はいかにも好い心持そうでした。
「悪いとは言いませんがね、親分」
「何だ、文句があるのかえ」
「こう、金龍山の鐘が陰に籠ってボーンと鳴ると、五臓六腑へ沁み渡りますぜ」
「怪談噺てえ道具立じゃないよ。見や、もう月が出るじゃないか」
「へッ、へッ、真っ直ぐに申上げると、腹が減ったんで」
ガラッ八の八五郎は、長い顎を撫でました。涎を揉み上げるといった恰好です。
「もう食う話か、先刻あんなに詰め込んだ団子はどこへ入ったんだ」
「それが解らないから不思議で、――何しろ竹屋の渡しから水神まで三遍半歩いちゃ、大概の団子腹がたまりませんよ」
「泣くなよ八、風流気のない野郎だ」
銭形の平次と子分の八五郎は、こんな無駄を言いながら、向島の土手を歩いておりました。
昼のうちは、落花を惜しむ人の群で、相当以上に賑わいますが、日が暮れると、グッと疎らになって、平次と八五郎の太平楽を妨げる酔っ払いもありません。
ちょうど牛の御前のあたりへ来た時。
バタバタと後ろから足音がして、除け損ねた八五郎の身体へドンと突き当りました。