Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
「土手の上は月が射しております。今出たばかしでございましょう」
勝造は艫へ立上がって、小手をかざしました。
その時。
「あッ」
主人の大村兵庫、いきなり盃を投げ出して俯向いたのです。
「どうなさいました、殿様」
芸妓、幇間の騒いだも無理はありません。大村兵庫の左の眼に楊弓の矢が真っ直ぐに突立って、血潮は滾々として頬から襟へ滴っているではありませんか。
船の中は煮えくり返る様な騒ぎですが、誰もどうする事も出来ません。その中で一番落ち着いているのは、眼を射られた本人の大村兵庫でした。さすがは三千五百石を喰む旗本だけに、気が落ち着くと、自分で矢を抜き取り、有合せの巾を集めて、キリキリと繃帯はしましたが、流るる血は、潮時と見えてなかなか止りません。長さ九寸、朴の木で作ったヒョロヒョロの矢ですから、他の場所に当ったんでは、大した業もしなかったでしょうが、眼玉を射ただけに、これは厄介です。
「この辺に外科はないか」
それでも村川菊内、一番先に医者の事に気が付きました。
「向島の土手じゃ医者がありません。本所へ行かなきゃア」
これは勝造です。
「本所へ行くくらいなら、向う岸へ引返した方がよかろう。