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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
銭形平次捕物控
一
一
「親分、向うの角を左へ曲りましたぜ」
「よしッ、手前はここで見張れ、俺は向うへ廻って、逆に引返して来る」
平次とガラッ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盗、――世間で「千里の虎」というのを、小石川金杉水道町の路地に追い込んだのです。
「合点だッ、親分、八五郎が関を据えりゃ、弁慶が夫婦連れで来ても通すこっちゃねえ」
ガラッ八の八五郎は、懐から手拭を出すと、キリキリと撚を掛けております。
まだ薄寒い二月の真夜中、追う方から言えば、意地が悪く月も星も見えませんが、曇っているだけに、物の隈が濃くないのは、逃げる者にとっては案外楽でないかもわかりません。
「無駄を言わずに要心しろ、ここへ追い込めば袋の鼠だ。手前か俺が縮尻らなきゃア、逃げられる場所じゃねえ」
平次はそう言いながら、引返して逆に、右手の路地を入って行きます。いわば蹄鉄形の長い路地を、一方の口にはガラッ八が頑張り、一方の口からは平次が入って行ったのですから、左右の町家のいずれかへ飛込むより外に道はないはずです。
「あッ」
路地へ入った時、平次は思わず声を出しました。向うから飛んで来た曲者の姿が、チラリと平次の眼に入ったと思うと、蹄鉄形の路地の頂点あたりで、掻き消すように消えてなくなったのです。