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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
市五郎はそのまま、踵を返そうとすると、
「まあ待ちな、面白い話をして聞かせる」
お多福の男は自信あり気に腰も起しません。
「早く言ってしまえ」
「急ぐな、市五郎。お春が死んでいたのはここだ、お春の亡霊立ち合いの上で、話したいことがある」
「…………」
何という不気味な言葉でしょう。
「お春は聖堂裏で笠の赤い紐で絞殺され、ここまで引っ担いで来て投り込まれたんだ。昨夜は全く、鼻をつままれても解らない闇だった」
「俺はそんな事を聞きたくはない」
「酒屋の長吉が、お春をつれ出したというので疑われたが、あれはお春と近々一緒になるはずだったから、どう間違ってもお春を殺すはずはない」
「…………」
市五郎はモジモジしましたが、妙に引付けられて、振り切って逃げることも出来ません。青白い月が横半面を照して、こう語り進む男の、お多福の面が、妙に物凄く見えます。
「死体の側には手拭が落ちていた。下手人が落したんだ、それには何の印もなかった。間もなく畳屋の辰蔵が手拭をなくしたと名乗って出た。辰蔵はきかん気の男だが、嘘をつく人間じゃない。それに、その手拭の端に、たの字を書いたことは、多勢の人が見て知っている」