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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
が、それも長いことではありませんでした。
「親分、『疾風』がとうとう殺しをやりましたぜ」
ある日の朝、早耳のガラッ八が飛込んで来るのを合図のように、平次の態度はまた元の緊張に返ったのです。
「どこだ、八」
「皆川町のたから屋で」
「質屋だネ」
「ヘエ、その質屋へ定石通り夕方八人芸のお島が来たんだそうですよ。あの家の総領で一と粒種の和太郎――五つになるのが、門付の八人芸の面白さに釣られてどこかへ行ってしまった――と気のついたのは夕飯の時で、それから騒ぎになったが、どこを探しても判りません」
「フーム」
八人芸というのは、後に紅勘踊りなどに転化して、芝居の所作事にまでされた街頭の名物で、頭巾を冠り、くくり袴を穿き、目かつらをつけ、三味線を弾き、胸と膝に括り付けた太鼓と鉦を叩いて踊り歩いたものです。今日のチンドン屋を思い出しますが、紅勘と言われた後世の門付は、非常の名人で十二文の銭を店頭へ置かなければ、振り向いても見ないほどの見識があったそうです。
平次の時代の門付の八人芸はその原始的な形ですが、相当以上の芸達者があったもので、外神田に住んでいたというお島などは、若い娘の何に世をすねたか、美しくもあり、歌も音曲も踊りも達者ではあり、当時江戸中の人気をさらって行くほどの評判者だったのです。