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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
「…………」
森右門と名乗った木村六弥も、その妻も、――何にも言いませんでした。川面を吹き渡る冷たい風が、お島の身体も声も顫わせて、何ともいえぬ陰惨の気が四方をこめます。
「三千両は首尾よく集まりましたが、私はもう、つくづく武家の暮しが厭になりました。町で育って幸い身に着いた遊芸、これでいつまでやって行けるかわかりませんが、皆様とお別れ申上げて、気楽に世渡りがいたしとうございます」
「馬鹿なッ」
木村六弥の怒りの声が、吹き募って来た夜風に吹き千切られます。
「たから屋の手代が斬られた時から、私は覚悟を決めました。貧乏人いじめはしないまでも、何百人と困らせ苦しめた金、人間一人の血を流した金で、菩提所を建立したところで、先祖様を祀ったところで、何の供養にも功徳にもなりません。私は、私は――」
お島は顔を反けて泣いている様子でした。さすがに断ち難い恩愛に、後ろ髪を引かるる想いなのでしょう。
「お島ッ、何という雑言だッ。子が親に意見めかしい事を言うさえあるに」
木村六弥はいよいよ怒りのために口がきけない様子です。
「私は父上様から骨折賃に頂いたお金、盗んだ額の十の一つは――みんな御用聞の家へ投り込みました。