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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens

Aozora Bunko

銭形平次捕物控

一

一

「八、今のはなんだい」

「ヘエ――」

銭形の平次は、後ろから跟いて来る、八五郎のガラッ八をふり返りました。正月六日の昼少し前、永代橋の上はひっきりなしに、遅れた礼者と、お詣りと、俗用の人が通ります。

「人様が見て笑っているぜ、でっかい溜息なんかしやがって」

「ヘエ――相済みません」

八五郎はヒョイと頭を下げました。

「お辞儀しなくたっていいやな、――腹が減ったら、減ったというがいい。八幡様の前でよっぽど昼飯にしようかと思ったが、朝飯が遅かったから、ツイ油断をしたんだ。家までは保ちそうもないのかえ」

「ヘエ――」

「ヘエ――じゃないよ。先刻は橋の袂で飼葉を喰っている馬を見て溜息を吐いていたろう。あれは人間の食うものじゃないよ。諦めた方がいいぜ」

「へッ」

八五郎は長い顎を襟に埋めました。まさに図星といった恰好です。

「どうにもこうにも保ちそうもなかったら、その辺で詰め込んで帰るとしようよ。魚の尻尾を齧っている犬なんか見て、浅ましい心を起しちゃならねエ」

平次はそんなことを言いながら、その辺のちょいとした家で、一杯やらかそうと考えているのでした。

「犬は大丈夫だが、橋詰の鰻屋の匂いを嗅いだら、フラフラッとなるかも知れませんよ」