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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
「…………」
平次は黙って首を振りました。
「証拠は山ほどありまさア」
「たとえば?」
「梯子段に油を塗って番頭の喜八を殺しかけた奴が解ったんです」
「誰だ、そいつは?」
「藤屋の縁の下に、油でぐっしょりになった金次郎の前掛けが隠してあったんです」
「馬鹿野郎」
「ヘエッ」
平次の痛快な叱咤を喰って、ガラッ八は首を縮めました。
「自分の前掛けへ油をひたして、梯子段に塗る馬鹿があるもんか。それだけでも金次郎は潔白だ」
「だって親分、お燗番は金次郎の女房のお島ですぜ。それに主人の万兵衛が死際に――」
「お島の名を呼んだのは庇ってやりたかったからだ。――どこの世界にお燗番が自分の手で酒へ毒を入れる奴があるものか」
「それに金次郎は、ひどく万吉に嫌われていたそうですよ」
「だから、万吉を抱き上げて、井戸へ抛り込んだのは金次郎じゃないのさ。人見知りをする子で、容易に誰の手へも行かなかったというじゃないか」
「ヘエ――」
「子供を抱き上げて、声も立てさせずに井戸へ抛り込んだのは、子供と一番仲の好い奴だ。――女だよ、八」
「えッ」
「徳利へ毒を入れて、摺り替えたのも女だ。女に観世縒の上手なのは滅多にないものだ。