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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

電信は夜までに通じるようになった。兵站部は炊煙をあげた。婦人軍は病院に詰めたり急拵えの営舎に立働いた。

徹宵、焼けあとに働いていた工兵たちは、夜が明けると、傷ましそうに、真っ黒な喬木の梢を見上げて嘆き合った。

「……ああ、この大銀杏も、焦げてしまった」

それは幹の太さ五ツ抱えもある本丸前の大銀杏で、名城熊本の象徴として聳え立ち、秋となればこの大木の金葉が燦々と城下町から遠望されるので、熊本の城を称んで一名「いちょう城」とも唱えられたほど由緒ある樹であった。

「人にも寿命がある。この際、樹など惜しむに足るものか。われわれの骨を焼いても、亡ぼしてならないものは国憲の大則だ、国体の擁護だ。そのためにはあらゆるものを戦に投げても惜しくはない」

若い工兵将校が絶叫した。工兵たちは、巨大な一本の炭と化した銀杏の樹に万歳の声を献げた。

それに答えるように、川尻方面で大砲の音がとどろいた。城下の各所からもバチバチ小銃の響きが起った。

薩軍の先鋒隊はすでに市街へ入って来たとみえる。

九

「鎮台司令官は、防備にのみ専念されておられるが、なぜ、進んで三太郎峠の嶮を擁し、積極的に敵を撃破するの策に出なかったか」