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しゅんちゅう
春昼・春昼後刻
泉 鏡花
Read 春昼・春昼後刻 (しゅんちゅう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,079 characters · 102 screens
ありませんか。」
「真箇ですね。」
「昔、井戸を掘ると、地の下に犬鶏の鳴く音、人声、牛車の軋る音などが聞えたという話があります。それに似ておりますな。
峠から見る、霧の下だの、暗の浪打際、ぼうと灯が映る処だの、かように山の腹を向うへ越した地の裏などで、聞きますのは、おかしく人間業でないようだ。夜中に聞いて、狸囃子と言うのも至極でございます。
いや、それに、つきまして、お話の客人でありますが、」
と、茶を一口急いで飲み、さしおいて、
「さて今申した通り、夜分にこの石段を上って行かれたのでありまして。
しかしこれは情に激して、発奮んだ仕事ではなかったのでございます。
こうやって、この庵室に馴れました身には、石段はつい、通い廊下を縦に通るほどな心地でありますからで。客人は、堂へ行かれて、柱板敷へひらひらと大きくさす月の影、海の果には入日の雲が焼残って、ちらちら真紅に、黄昏過ぎの渾沌とした、水も山も唯一面の大池の中に、その軒端洩る夕日の影と、消え残る夕焼の雲の片と、紅蓮白蓮の咲乱れたような眺望をなさったそうな。これで御法の船に同じい、御堂の縁を離れさえなさらなかったら、海に溺れるようなことも起らなんだでございましょう。