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しゅんちゅう
春昼・春昼後刻
泉 鏡花
Read 春昼・春昼後刻 (しゅんちゅう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,079 characters · 102 screens
二十五
庵室の客人なんざ、今聞いたようだと、夢てふものを頼み切りにしたのかな。」
と考えが道草の蝶に誘われて、ふわふわと玉の緒が菜の花ぞいに伸びた処を、風もないのに、颯とばかり、横合から雪の腕、緋の襟で、つと爪尖を反らして足を踏伸ばした姿が、真黒な馬に乗って、蒼空を飜然と飛び、帽子の廂を掠めるばかり、大波を乗って、一跨ぎに紅の虹を躍り越えたものがある。
はたと、これに空想の前途を遮られて、驚いて心付くと、赤楝蛇のあとを過ぎて、機を織る婦人の小家も通り越していたのであった。
音はと思うに、きりはたりする声は聞えず、山越えた停車場の笛太鼓、大きな時計のセコンドの如く、胸に響いてトトンと鳴る。
筋向いの垣根の際に、こなたを待ち受けたものらしい、鍬を杖いて立って、莞爾ついて、のっそりと親仁あり。
「はあ、もし今帰らせえますかね。」
「や、先刻は。」
二十五
その莞爾々々の顔のまま、鍬を離した手を揉んで、
「何んともハイ御しんせつに言わっせえて下せえやして、お庇様で、私、えれえ手柄して礼を聞いたでござりやすよ。」
「別に迷惑にもならなかったかい。」
と悠々としていった時、少なからず風采が立上って見えた。