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しゅんちゅう
春昼・春昼後刻
泉 鏡花
Read 春昼・春昼後刻 (しゅんちゅう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,079 characters · 102 screens
三十五
「じゃ、唯持って行きゃ可いのかね、奥さん、」
と聞いて頷くのを見て、年紀上だけに心得顔で、危っかしそうに仰向いて吃驚した風でいる幼い方の、獅子頭を背後へ引いて、
「こん中へ入れとくだア、奴、大事にして持ッとんねえよ。」
獅子が並んでお辞儀をすると、すたすたと駈け出した。後白浪に海の方、紅の母衣翩翻として、青麦の根に霞み行く。
三十五
さて半時ばかりの後、散策子の姿は、一人、彼処から鳩の舞うのを見た、浜辺の藍色の西洋館の傍なる、砂山の上に顕れた。
其処へ来ると、浪打際までも行かないで、太く草臥れた状で、ぐッたりと先ず足を投げて腰を卸す。どれ、貴女のために(ことづけ)の行方を見届けましょう。連獅子のあとを追って、というのをしおに、まだ我儘が言い足りず、話相手の欲しかったらしい美女に辞して、袂を分ったが、獅子の飛ぶのに足の続くわけはない。
一先ず帰宅して寝転ぼうと思ったのであるが、久能谷を離れて街道を見ると、人の瀬を造って、停車場へ押懸ける夥しさ。中にはもう此処等から仮声をつかって行く壮佼がある、浅黄の襦袢を膚脱で行く女房がある、その演劇の恐しさ。大江山の段か何か知らず、とても町へは寄附かれたものではない。