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しゅんちゅう
春昼・春昼後刻
泉 鏡花
Read 春昼・春昼後刻 (しゅんちゅう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,079 characters · 102 screens
(従って、爪尖のぼりの路も、草が分れて、一筋明らさまになったから、もう蛇も出まい、)その時分は大破して、丁ど繕いにかかろうという折から、馬はこの段の下に、一軒、寺というほどでもない住職の控家がある、その背戸へ石を積んで来たもので。
段を上ると、階子が揺はしまいかと危むばかり、角が欠け、石が抜け、土が崩れ、足許も定まらず、よろけながら攀じ上った。見る見る、目の下の田畠が小さくなり遠くなるに従うて、波の色が蒼う、ひたひたと足許に近づくのは、海を抱いたかかる山の、何処も同じ習である。
樹立ちに薄暗い石段の、石よりも堆い青苔の中に、あの蛍袋という、薄紫の差俯向いた桔梗科の花の早咲を見るにつけても、何となく湿っぽい気がして、しかも湯滝のあとを踏むように熱く汗ばんだのが、颯と一風、ひやひやとなった。境内はさまで広くない。
尤も、御堂のうしろから、左右の廻廊へ、山の幕を引廻して、雑木の枝も墨染に、其処とも分かず松風の声。
渚は浪の雪を敷いて、砂に結び、巌に消える、その都度音も聞えそう、但残惜いまでぴたりと留んだは、きりはたり機の音。
此処よりして見てあれば、織姫の二人の姿は、菜種の花の中ならず、蒼海原に描かれて、浪に泛ぶらん風情ぞかし。