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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Read 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 191,184 characters · 379 screens
卑怯と思ったに、江戸にいる老中田沼主殿も、信濃に在す冬次郎殿が、討って取ろうのご詮索、それゆえ一揆へ加担せぬとよ! ワッハハハッ、何を痴言! さようの痴言申そうより、命が惜しく罪着るが恐い、それゆえ止めじゃと仰せられい! その方が遙かに男らしい! その代りに拙者日本国中、殿のお噂出るごとに彼松平冬次郎は、草莽の志士、浪人の巨擘、天下民衆を思念する英雄――などと申すが実は贋物! 要するに神袴の子弟、悲歌慷慨も貴公子の道楽と、吹聴いたすと心得られよ! ご免!」
というと熱血誠心、真摯真剣ではありながら、彦九郎流の一徹短慮、思慮に乏しい浪人者の粗笨、傍らの大刀ひっさげるや、ヌッと立って席を蹴った。
襖は一切開け放されていた。
密談する時の作法だからである。
幾間かへだてた彼方にある、縁側の端に外伝と新助とが、庭の方へ顔を向け、近寄る人を警戒しながら、夕陽がその庭にある土蔵や納屋に、砂金のように降りそそぎ、その中で山鳩が人を恐れず、餌をひろっている姿に見入り、こっちへ背中を向けていたが、この騒ぎに驚いて、一斉に顔を振り向けた。
「まず待たれい、高阪氏!」
いって止めたは熊太郎で、これも傍らの大刀を取ると、鐺で郡兵衛の袴の裾を抑えた。