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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
「有難う存じます」
佐七は大地の上へ、ヘタヘタと崩折れました。その後を慕って来て、戸口へそっと顔を出したのは、若い娘、これも柱につかまって、身も浮くばかり泣いている様子です。
*
「手錠のままで、お民を殺したとは、どうも腑に落ちねえ」
ガラッ八のこう言う独り言を、平次は聞きとがめました。
「町内預けはお上のお情けだ。牢の中で掛ける本手錠と違って、自分の家に居る者の手錠は、食事、用便、その他、夜寝る時は外しても穿鑿はしないことになっているのだよ。町役人が親切で、別懇の間柄だと、時々は錠を外したまま、手頸に巻きつけておくことさえある。――」
それは全く、徳川時代の刑罰の面白い裏でした。
「なるほどね」
「手錠――と聞いて、それを外せないものに思い込んで、疑ってみる気にもならなかったのはこっちの手落さ。佐七は千三つ屋だが、町内で可愛がられている。町役人の重左衛門はあの通りお人好しだ」
「…………」
「佐七は物置を焼いて町内預けの手錠になったのを幸い、娘の怨みを酬いる気になったんだ。何かの都合で出羽屋の庖丁が手に入ったので、疑いをそっちへ向ける気になったのだけは憎いが」