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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
見たこともない男に声を掛けられて、踊りの師匠のお喜多はぎょッとした様子でした。
二十三四――そろそろ年増にもなろうという方ですが、美しさは存外で、その細骨のキリリとした手肢も、豊かな胸も、すんなりした首も、張り切った眼も、紅い唇も、女盛りの妖艶さを撒き散らすようで、臆面のない八五郎も、何となく近づき兼ねました。
「引越しかえ、お喜多さん、少し手伝ってあげようか」
「いえ、あの――」
お喜多は大たじたじです。狭い家の中一パイに取散らかして、置舞台の上には、風呂敷包が二つ、葛籠が一つ、引越しの手伝いを待つ風情に置いてあるのでした。
お喜多は逃げる積りだ――。早くもそう感付いたガラッ八は入口に立ち塞がるように、精一杯の冷酷な調子で追及しました。
「実はね、お喜多姐さん、紛失物を届けに来たんだが――」
「…………」
「何でもありゃしないよ。青い提灯と鬘さ。昨夜恵大寺の墓場で、綾吉が殺された時分に拾ったんだが、心当りがないとは言わないだろうね」
「えッ」
お喜多は色を喪いました。よろよろとなると、わずかに葛籠に支えられて、胸を抱いたまま、踊りの幕切れのような悩ましい姿態になります。