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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(二)八人芸の女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(二)八人芸の女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,562 characters · 291 screens
それくらいのことは、親分――」
長吉は――察して貰いたい――といった顔で、平次を見上げました。少しノッペリしているが、お春の夫には打って付けの好い男で、人一人殺せそうな様子は微塵もありません。
「お前の手拭はどうした」
「ここに持っていますよ」
長吉はそう言って、懐から畳んだ手拭を出しました。波に千鳥と桜、先刻崖のふちで拾ったのと全く同じ品で、長吉が落したものでないことは明らかです。
「お春と何をしていたんだ」
「ヘエ――」
「何をしていたんだよ」
「この次に逢う日と場所を決めました」
「それっきりか」
「ヘエ」
「どれほど話していた」
「四半刻(三十分)ともかかりはしません。私が御神酒所へ引返した時は、まだ明るかったのですから――証人はいくらでもありますよ」
「よしよし、明るい内にお春を絞めて、お茶の水の崖まで引摺っても行けまいから、お前さんには罪はないだろう」
平次はこの男を帰してやろうか――と考えていました。滅多に人を縛らない平次で、これくらいのことでは長吉を疑う気にはなれません。
しかしそれは無駄な思いやりでした。
「平次、殺しがあったそうだな」
「あ、旦那」
同心、湯浅鉄馬、この時祭の警固に出張していたのが、騒ぎを聴いて、自身番へやって来たのでした。