Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
「こないだ、旦那様が溝にこれをおあけんなっていらっしゃいましたけれど――お棄てになりましたんでしょうか」
伸子は黙って、暫くとよが雨空を鈍く反射させながら手に持っている空の硝子壜を見ていた。
「もういい。じゃあ」
とよが、詫びを云いそうにした。とよの責任でないのは分っていた。伸子は急いで顔洗いに去った。
――伸子はあの毬藻が好きであった。珍しいその藻の生活状態を、阪部から説明されたからばかりでなく、形も色も愛らしいものであった。佃が誰かから貰ったものだったら、そうむざむざ棄てなかったろう。伸子はそう思うと惜しい気がし、命ある毬藻が哀れにさえ感じられた。昨夜彼はそんなことは一言も云わなかった。伸子が阪部に、毬藻の怪しくなって来たことを話していたのに。
二時過、伸子は家を出て丸善へ行った。昨夜、阪部が、今日丸善へ参考書を註文しに行くと云う話が出た。
「丸善――私も何か見に行きたいな」
すると、佃が云った。
「行くなら、こないだ送って貰った中に返すのがあるからとりに来いと、杉君に云って下さい」
出かけるまで毬藻のことが伸子の心にこだわっていた。彼がわざと棄てたとはっきり分るのが実にいやであった。