Japanische Klassiker mit Furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme
ふと、かれの心は、べつな心のなかで、シュクシュク泣き出していた。ひとつの人間の中に、二つの心があったのである。
が――その一つの方の心を見出すことは、かれにとって、恐かった。致命的である。生きていられなくなる。
狂気したように、市十郎は、どどどどッと階下へ駈け降りて行った。そして、台所へ突ッ立ち、ただならぬ眼つきを動かした。一升徳利を見つけた。徳利の口をつかんで顔の上へ逆さに持って行った。……眼をつむり、喉を太め、グビ、グビ、グビ――と息もつかない。
「いねえのか。……お島」
がらりと、そこの腰障子を開けた者がある。
市十郎は、軽くなった貧乏徳利を、ゆっくり顔から離した。
見ると、赤螺三平だ。後ろにも、同じ恰好なのが、四人ほど首をのばしている。
「やッ。てめえは、市十郎だな」
「……市、十、郎なら……?」
市十郎は、虹のような酒気を、ふーッと吐き、またやや苦しげに、たじたじと、踵へ力を入れた。
「そうだ。市十郎だ。……だ、だッたら、どうするッてんだ」
「出ろっ」
「ど、どこへ」
「きょうは勝負をつけてやると、お島へもいってある。聞いたろうが」
「知らぬ」
「ええい、四の五を聞きに来たんじゃねえ。