Japanische Klassiker mit Furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme
裏菊の門
互に心をゆるし合っている越前守のために、事件以来、いかに憂い、いかに心をくだいていたか。それは一与力の職を固執すれば足る自分などよりは、はるかに深い深いものがあるかもしれない。
腕拱いて、立ちすくみに、独り考えこんでいた彼の肩に、パラと、大樹の夜つゆが冷たく降った。はっと、われに返って、襟すじを撫でながら、
「そうだ。同僚たちも、何しておるかと、案じていよう。ともあれ今夜は、奉行所へひきあげよう」
思い返して、一方の小道へ、歩み出したときである。
がさっと、闇が揺れた。木の間の暗がりを、白い顔が、泳ぐように、逃げ去って行く。
「あっ、女?」
お袖だ。お袖にちがいない。義平太は身ぶるいに衝き上げられた。与力という使命感。十手を持つ身。御用っと、無意識のうちに叫んでいた。そしてのめるが如くその影を追ったものの――かれはしどろに迷いみだれた――搦めたものか、見遁したものか、いずれが是、いずれが非か、と。
お袖と越前守。
こうふたりの関係が、公となったとき、果たして、越前守の地位が、なお不動であり得るだろうか、世上の非難にたいしてどういい解くか。また、それがふたたび、越前守個人の生涯を禍いせずにいるだろうか。