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Japanische Klassiker mit Furigana

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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme

Aozora Bunko

「於市か……」

市十郎は返辞の声が出なかった。するとまた、

「何をしているんだ。そこらの部屋から金を探せよ、金を――」と、いらいら急いた。

だが、市十郎は、歩こうにも、歩けないのである。恐ろしさに、足のつがいが外れたように動けなかった。しかし事実は、死骸と思った瀕死の傷負いが、苦しまぎれに、市十郎の裾をつかんでいたのであった。

焦れ気味の大亀は、こんどはやや大声で、またどなった。

「やいっ、何を愚図愚図してるんだよ。早くそこらの部屋を掻き廻して、金を見つけるんだ。金を。――荷物になる物なんぞ持っても駄目だぞ」

夢中の市十郎は、傷負いの手をもぎ放した。ウームという唸きが足もとでもれた。彼には何の識別もない。泳ぐように部屋へ入り、また次の間へ伝って行った。

そこには薄明りがあった。行燈に、女の羽織が被せてある。まだうら若い母親は、白い肌に乳呑み児を抱きしめ、蒲団の上に、おののいていた。

「…………」

かの女の白い顔は失神していた。けれど眸の光は強い母の本能に燃え立ッていた。

アッ――と市十郎は、居竦んでしまい、奇妙な胴ぶるいが、ガタガタと骨を鳴らした。

女は、手をさしのばしていた。