Japanische Klassiker mit Furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme
お父さまには、役所の勤めもあるので、そうもゆかぬ。……が、ここへ来る夜は、夜更くるまでも、教えてやろうぞ。……さ、硯を出して、墨をおすり、いつもの、お習字」
「お習字は、好きです。お父さま、もう次のお手本を書いて下さいませんと……」
「もう、そんなに、やっておるのか」
「昼間、ひまさえあると」
「どれどれ、見せい。ううむ。ほんに、すこしの間に、うまくなったの。……が、ここがまだ、すこしいかんな。よし、わしが手を把ってつかわそう」
お燕の一面に、たあいのない純真さのあるために、父の越前守も、ここではまるで、寺小屋のよい先生になりきっている。
彼は、立って、お燕の背なかにまわり、肩ごしに、お燕の筆をもつ手を把って、根気よく、筆法を教えていた。――もう、こんなふうに、いろはのいの字から手を取って教え出してから、一年近くになる。
彼は、心友市川楽翁のすすめにまかせて、世間にもそッと、ここに一軒の別宅をもった。
たれもが、妾宅だと、思っている。うすうす越前の出入りに気づいた近所では、
「お奉行もよいお楽しみができた」
と蔭でいっている。
が、楽翁の養女と称して、野の花からこの家の庭へ移し植えられて来た者は、公にも、すでに死籍の人とされていたお燕であった。