Japanische Klassiker mit Furigana
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みちくさ
道草
Lesen Sie 道草 (みちくさ) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.812 Zeichen · 293 Bildschirme
五十三
しかしそれは健三の神経を自尊心の一角において傷め付けるほど強くも現われていなかった。
健三は立って書斎の机の上から自分の紙入を持って来た。一家の会計を司どっていない彼の財嚢は無論軽かった。空のまま硯箱の傍に幾日も横たわっている事さえ珍らしくはなかった。彼はその中から手に触れるだけの紙幣を攫み出して島田の前に置いた。島田は変な顔をした。
「どうせ貴方の請求通り上げる訳には行かないんです。それでもありったけ悉皆上げたんですよ」
健三は紙入の中を開けて島田に見せた。そうして彼の帰ったあとで、空の財布を客間へ放り出したまままた書斎へ入った。細君には金を遣った事を一口もいわなかった。
五十三
翌日例刻に帰った健三は、机の前に坐って、大事らしく何時もの所に置かれた昨日の紙入に眼を付けた。革で拵らえた大型のこの二つ折は彼の持物としてむしろ立派過ぎる位上等な品であった。彼はそれを倫敦の最も賑やかな町で買ったのである。
外国から持って帰った記念が、何の興味も惹かなくなりつつある今の彼には、この紙入も無用の長物と見える外はなかった。細君が何故丁寧にそれを元の場所へ置いてくれたのだろうかとさえ疑った彼は、皮肉な一瞥を空っぽうの入物に与えたぎり、手も触れずに幾日かを過ごした。