Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
猛々しい情熱で、伸子は心がくらんだ。相搏つ烈しい二つの力を自分の中に感じ、裂けそうであった。どこかで、熱心に、止めた方がいい、さあ、あっちに行こうと勧めるものがある。それを見向きもせず、手を振り払って、ひたむきに、ひたむきに、喧嘩したがり、喰ってかかりたがっているもう一つのもの。自分も彼も粉々にし、ざま見ろと叫びたいほどの暴々しさ。――佃は着換えをすますと、彼一流の利口さで、口も利かず、振りかえりもせず、静かに納戸を去った。伸子は、急に名状し難い空虚を感じた。自分と彼とに対する悲しみが彼女を圧倒した。伸子は、そこに立ったまま、すすりないた。
ほどなく、佃の老父が帰宅した。
伸子は台所へはいり、魚を煮はじめた。火気でむしむしする狭い厨房の空気は、苦しい伸子の心をとり巻いて、ますます彼女を苦しめた。
伸子には、今、別な悲しみがあった。若しこれが、一年前のいがみ合いであったら、自分はこのように、嫌悪と暗さに満ちた心で、しかも頑固に独りを守って、ひねくれていたであろうか。伸子は、佃の言葉を素直に受けられなかった自分の心持のせいだけにでも、きっと彼に謝らずにはいなかった。