Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
彼は呻り、呟き、目を瞠ってさらに女にとびかかろうと物凄い面構えをした。ぎっしり詰った鋪道で、女は右にも左にも容易く身をかわすことができない。黒い影が乱れ、男が怒った声で何か叫んだ。伸子は駭いて力まかせに父の腕を引っ張り、燈柱の蔭にかくれた。
「帰りましょう。よ! いやよ私、こんな騒動――」
「ちと、百鬼夜行だね」
徹宵人通りと酔漢の大声を伸子は窓の下に聞いた。
翌朝の新聞で、前日の報道は全く誤伝であったことが判った。本当の報告は、十一日の早朝までに、無線電信で戦地から伝えられる筈であった。しかし、一般は七日に受取った休戦報告を疑わなかった。彼らは皮肉混りに「政府はいつも事実より遅れて話す」などと云った。
十一日の早朝、まだ寝床にいるうち、伸子は父に起されて公式の休戦条約締結報告の汽笛を聞いた。白い靄のこもった寒い外気を顫わせて、彼女の眠いうっとりした耳に、入混った汽笛が届いた。汽笛の響は、真面目で、落着いて、七日の午後いきなり空に向って吹きつけたあの熱情を失っていた。伸子の心持も同じであった。感動の新鮮さの失われた実際的な心持で中途までを聞き、やまないうちにまたぐっすり寝こんでしまった。