Japanische Klassiker mit Furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme
眼じりから、涙のすじが、枕を打つ。寝返る振りをしては、折々、かの女は、顔をそむけた。
朝。夜が明けるか、明けないうち。
越前守は、湯殿で水音をさせていた。自分の手で、結髪し、髯も剃り、居間へはいった。
前の夜、妻は女中を呼んで、何か小声でいいつけていた。そのとき出させておいたものらしい。良人のための真新しい衣服一切が襲ねてある。
良人は妻の用意に胸がいっぱいになった。かの女は自分の心に何があるかを語らずとても知っている。越前守にとり、これは何より心強かった。幼な子たちの養育にも思い残りのない気がする。ただ彼は、彼女がこれからの孤閨に母としてのみ生きてゆく長い前途に、一日もはやく健康をとり戻すように――と、それだけが祈られた。
万感のうちに、彼は肌着をつけ、上着、麻裃まで、すべてを纏い、同時に、何か心がすわったような重厚感を自分の肚に覚えた。
裃と小袖を除けば、かれの今朝の装いは、白一色の死装束であった。自らも清々しく、他の見る眼にも清潔であった。
妻の病間に来た。お縫は、うす化粧して、床の外に坐り、園子を抱いていた。
「お送りさせていただきます」
と、いった。