Japanische Klassiker mit Furigana
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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
Lesen Sie かんかん虫は唄う (かんかんむしはうたう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 91.006 Zeichen · 182 Bildschirme
「分ってるわよ」と夫人は地を出して――「分っているけれど、こん夜はいいじゃないの」
「まだ、もう一競馬ありますからな」
「酒は飲めない、夜更かしはいけない、女も何もなんて、そんなにびくびくしていなければならないものなら、騎手なんてやめっちまえばいいのにさ。坊さんになっても同じことだわ」
「まったく、騎手生活なんて、はやくやめたいです。人気者になるほどいやなものはありますまい」
「だから、この次の競馬には、負けた方がいいじゃないの」
「そうも行きませんな。ははは」
「やっぱり、人気者でいたいんでしょう」
「だから苦しむのです。それがなければ何も」
「むじゅんしているわね、この人。――いいわよ、どっちにしても、こん夜ひとばんは、きっと私につきあってくれるのだから。ね、そういう約束だったわね」
「それやいいですとも」
「なんだかうわの空だわね、この人は。よその奥さんを騙すようには、私は、いかないことよ。ご承知でしょうが」
「ははは、騙せるあなたでもないでしょう。ま、そこのベンチへ腰掛けましょう、すこし草臥れました」
と、島崎はくすぐったい顔をしながら、ベンチのまわりを見廻した。