Japanische Klassiker mit Furigana
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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
Lesen Sie かんかん虫は唄う (かんかんむしはうたう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 91.006 Zeichen · 182 Bildschirme
「火を一つ」
と、一度吸って消してある両切りの先ッぽを、ぶしつけに、出して来たのである。
「火ですか」
「恐縮ですが」
お光さんは、わざと火のついている煙草はそのまま指に置いて、ポケットから、香港出来の蝋マッチを探って、黙って貸してやる。
男は、人間の小骨みたいな蝋の棒から、硫黄色の火を出して、すぱっと、いやしい音をさせて吸った。
それを、戻しながら、
「いい日曜ですな」
「え……」
お光さんは、道理で港内が静かなわけだったとうなずいたけれど、男の顔へは、一べつも向けなかった。
「お散歩ですか」
と、男はうるさい。
「え」
「どこかでお見うけしたように思いますが……あなたを」
「そうですか」
「ご近所ですか」
「え」
「山の手でしたろうか、さあ……何処でお目にかかったでしょうな」
お光さんは、とうとう、持ち前のかんしゃくが起きてしまった。
「うるさいわよ。君」
君! と来たので男はぎょっとしたように彼女の顔を見直した。
お光さんは、犬を見るように、蔑んだ眼で、
「――ご苦労様、吹きさらしで、張り番も楽じゃないわね。君は税関のスパイでしょう。顔に描いてあるわ。だけれど、私が、密輸入の信号をしているわけじゃないから、お生憎様ね!」