Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
「――到頭今年の夏は何もできなかったなあ」
などと呟いた。
「何か予定がおありんなったの?」
「自分の時間と云うものは夏休みしかないんだから、むろん、したいことはいくらもありましたよ」
散歩して、見晴し台へ行って見ると、射的場の前に、若者が群って笑い興じていた。自然石の涼台に晴れやかな様子で一組の夫婦が前の広場で追っかけっこしている子供を見ている。ぞろぞろ、伸子らの前後を通りぬけて、芝生の間の径を、遠い遊園地の方へ行く人々。皆が心軽げで、自然のひろさと、そこに小さい人間の雑沓を、気やすく楽しんでいるように見えた。伸子も、そういう人々に混って歩いていると、心が、単純に悦ぼう、悦ぼうと弾むのを覚えた。そして実際、彼女は射的場でキルク玉を打ち放つほど罪ない心持にもなるのであったが、それはやはり一時のことにすぎなかった。
部屋にかえって夫とさし向いになると、気重さが彼女に迫ってきた。大勢の人中にいる方が凌ぎよい。戸外の明るさの中にあっても、彼らは互に今溶けあったいい心持でいるかと思うと、忽ち離れ離れになった互を感じ、寂しい切ない思いを感じ合った。何とも云えない焦々しさが、そのようなとき、伸子を苦しめた。