Japanische Klassiker mit Furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme
――どちらまで? と訊かれても、帰るに帰る先のない市十郎の口吻と、髪のみだれ、衣服の綻び、血のにじみさえ見える手足に、お島の方から、私の家でよければとすすめ、途中で拾った二丁駕籠の灯をつらねて、ゆうべ晩く、この八丁堀の家へついたのであった。
「お礼なんて、もう、そんな、窮屈なお行儀ずくめは、おやめにして下さいな。家には、婆やのほかには、たれも気づまりな者はいないんだし……それにこういう私は、正直、蓮ッ葉の女なんですからね」
お島は、気性そのまま、さばさばといって、柄のいい男ものの丹前に下着をかさね、うしろから着せかけて、
「まだ、体が痛うござんすか」
「なに、今朝は大したことはないようです。何かと、お世話かけて」
「また、そんな……」と、軽く背をたたいて、肩ごしに、市十郎の襟元を、指先でかき合せてやりながら、顔と顔をふれあうばかりに、
「雪ですよ、今朝もまだ。……お風呂へでも、おはいりなさいな。その間に、朝の御飯をしたくしておきますから」
雪のささめくように耳元へいった。
湯から出ると、かの女は、自分もまだ食べずに待っていたといい、朝の膳からもう帆たて貝の小鍋を立て――そして酒さえつけて杯をすすめる。